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FRIDAY DIGITAL 吉田豪×大森靖子×小林司 激動のミスiDを振り返る

吉田豪×大森靖子×小林司 激動のミスiDを振り返る(前編)

❖後編は下にあります

グランプリ・友望、準グランプリ・十味...「ミスiD2019」はこうして決まった
2019年01月02日 カルチャー

2012年、震災の翌年に始まったオーディション「ミスiD」。

ちょうどツイッターが脚光を浴び始め、SNSやネットと寄り添うように成長してきた、ミスコンでありながら容姿以上に中身重視、年齢制限もほぼなく、既婚者やママでもOK、スキャンダル、前科的な失敗も更生してればOK。選考委員も、映画監督からバラエティのプロデューサーまでと広く、いま最も目が離せないオーディションと言われる「ミスiD」。

その主宰者である小林司氏と、その選考委員をそれぞれ二年目、三年目からずっと務めているプロインタビュアーの吉田豪氏、超歌手の大森靖子氏の三人によるロング鼎談。

昨年11月17日に発表されたばかりの「ミスiD2019」選考の裏側から、さらには「ミスiDはどこへ向かうのか?」というところまで。覚悟してどうぞ。

講談社会議室にて、左から吉田豪さん、2019グランプリ友望、大森靖子さん、実行委員長の小林司 

 

■選考委員がDMを開放しているオーディション

―― ミスiDもついに7年目ですけど、そもそもミスiDとは何か、知らない人のために実行委員長の小林さんから説明をお願いします。

小林司(以下、小林) 簡単に言うと、古くてつまらない「女の子らしさ」に捕らわれず、一人一人の持つ可能性に目を向けようというオーディションと、そこから派生するプロジェクトです。応募資格は今やあってないようなもので、コミュ障でもオタクでもインキャでもいい、何になりたいかわかんないでもいい、それまでの人生でつまづいたことがあってもウェルカム。ビジュアルだろうと中身だろうと何か一つ光るものを持ってきてください、というオーディションです。

昨年末ViViモデルを卒業したばかりの玉城ティナから始まり、西田藍、蒼波純、稲村亜美、レイチェル(chelmico)、文月悠光、水野しず、金子理江黒宮れい多屋来夢、穂志もえか(保紫萌香)、ゆうこす、長澤茉里奈ろるらり兎遊ほのかりん、やね、戦慄かなの、など、普通のオーディションでは通りにくい人、その子自身がジャンルになるような女の子を選んできたつもりです。

―― 今年のミスiD2019には、今までと違った傾向はあったそうですが。

吉田豪(以下、吉田) 毎年、実行委員長の小林さんと連絡が取れないってことでミスiDに挑戦中の女子がツイッターとかで怒るのはよくあることなんですけど、ツイッターのDMでボクのところに質問やクレームが殺到するのは初めてのパターンでしたね。
今年はテレビの「ラストアイドル」(テレビ朝日系)で炎上した影響で、ボクにDMを送りやすくなっていたという下地があったんですよ。それで次々と来るDMを返していたら、「吉田さんは返事してくれる」みたいな噂が口コミで広まって、「なぜ私が落ちたのか教えてください」みたいなめんどくさいDMまで大量に来るようになって。

小林 これは僕の完全な力量不足で。慢性的にキャパオーバーなのに加え、普通のオーディションではあり得ないくらい細やかな事前相談からめんどうな事後相談まで乗ってるんで、スタッフもチェックしてくれてるんですけど、名前のないメール、ツイッターのリプ、DMまで、本当に返さないといけないものから純粋に不満の捌け口みたいなものまでの通知の嵐を前に、毎年エントリー締め切り直前は完全なボコられ地獄というか……なので返信とか連絡が漏れがちなのは、そこはもうまったく否めません!

吉田 小林さんは毎年、こんな思いをしてるんだろうなってことが、よくわかりました(笑)。とにかく「じゃあ、私が落ちた理由は?」ってDMが大量に送られてきたのはしんどかったんですけど、その後、落とされた子たちが決起して、小林さんに直訴しまくった流れで、敗者復活戦みたいな企画が生まれたんですよ。

小林 そうなんですよね。通過メールが届いてない人たちから「私の書類読みましたか?」「一回会ってもらえばわかるはずです!」というようなDMが大量に来て。そもそもまだ書類選考段階なのに、すでに豪さんまでを巻き込む彼女たちのパワーは異常だなと。その週、たまたま金曜夜が空いてたので、もうこうなったら会ったほうが早いかなと。で、ツイートで告知したんですけど、最初せいぜい20、30人くらいかなと思ってたら、結果100人以上が控え室と廊下に溢れてしまって。結局3日に分けて全員から話を聞きました。疲れて死にかけましたけど、結果的にはやって正解でした。見逃してた人も何人もいたなと。ちなみに、大森さんにもDMは毎年すごい来るんですよね、それこそ手紙のような。

大森靖子(以下、大森) めちゃくちゃ来ますね。私の場合は、もっと恨み節っぽいというか。気持ちや情念を吐き出してくる長い文章が多いです。本当に手紙。

小林 豪さんには客観的に理由が知りたいというDMが来て、大森さんにはもっと情念がこもったDMが来る。

大森 そうですね。でも愛おしいし、だから、なるべく「そっか、そっか、そうだよね」って受け止める感じで。

小林 誰かにそう言ってくれるだけで生きられたりするんですよね……。しかし、そもそもDMで選考委員に落ちた理由を聞けたり、情念をぶつけて「そうなんだ」と聞いてくれるオーディション……なんなんでしょうか。

吉田 今年は、ボクのところに来たいろんなDMを公開するという状況がちょうど熟してたのも大きいです。「ラストアイドル」、そして地方アイドルの事件きっかけからのアイドル待遇問題まで、それを「ネタにはするけど秘密は守る」という感じで表に出したりしてたので、DMを送りやすい状況はできてたんですよね。それが、面白い方向に転がったのかな、と。

■「結局、かわいい子が選ばれる」問題

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大森 DMはいろいろあるけど、「私も靖子ちゃんにかわいがられる存在になりたいけど、結局かわいい子が~」とう内容のものは毎年多いかな。

吉田  「やっぱりかわいい子が〜」的なDMはボクにも来ます(笑)。

小林  「結局、かわいい子が選ばれるのかよ」というのは、ミスiDを始めて以来毎年ずっと言われ続けてることで。ミスiDの根っこは「アンチミスコン」的なものなんですけど、「結局選ばれてるのみんなかわいい子じゃんかよ」って。

吉田 よく言うんですけど、かわいいも武器の一つであって、そこを否定しているわけではないんですよ。ビジュアルの魅力がほとんどなくて、文章なり写真なり絵なりの武器だけ持ってミスiDを受けるのなら、それはそっちの本職の公募とかにエントリーするべきであって、ミスiDを名乗ってる以上は、ビジュアルの魅力+何らかの武器がある人に来てほしい。素手のまま無策で来られても困るし、かわいさだけを武器に勝ち抜くには、よっぽどじゃないと駄目ですよ。

大森 単純にかわいいだけで選ばれた人って、いないじゃないですか。私はいないと思ってます。

吉田 「結局、かわいい子を選んでるじゃないか」と言われるパターンと、「ミスiDは全然かわいくない」と言われるパターンと、正反対のこと言われるんですよ。何でこんなに両極なんですかね。

小林 たしかに「ミスiDはブスばっかり」もありますね。どっちなんだろう(笑)。

大森 単純にかわいい人の画像は一番ネットで拡散されていくから、「ああ、結局かわいい子が選ばれるのか」ってなるんだと思うのはわかるんですよ。

吉田 「かわいくない子もいるのに!」と言いたくても、具体名を言えないから難しいですよね(笑)。

大森 ただ、かわいいが一番の魅力じゃない人がこんなにいるのがミスiDなわけだから。

吉田 「グランプリに選ばれるのは結局、かわいい子が多い」って言われるんなら、まだわかるとボクは思ってますけどね。

■激動のミスiD2019を振り返る

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―― ここからはミスiD2019の受賞者を振り返っていきたいと思います。今回は正規のミスiDは10人で、うち一人がグランプリ、一人が準グランプリでした。

 

2018年11月17日、講談社で行われた授賞式「ミスiDフェス2019」。後列左から、選考委員・清水文太さん、大郷剛さん、ミスiD2019歩那、頓知気さきな、水沢柚乃中野たむ、選考委員・吉田豪さん。前列左から、選考委員・中郡暖菜さん、ミスiD2019詩島萌々、きのしたまこ、グランプリ友望、準グランプリ十味、ミスiD眉村ちあき、選考委員・菅野結以さん

■ミスiD2019準グランプリ 十味

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吉田 ミスiDは最終選考のパフォーマンスの結果がものすごく反映されるオーディションなんですよ。でも、最終選考の様子はクローズドなもので、映像は撮っているけど公開されてないのがもったいないと思っていて。公開されるのはカメラテストの映像だけだから、あれとSNSぐらいしかみんな見られない以上、なぜこの子がグランプリに選ばれたのかが伝わらないことも多い。だから、上位に入賞した人の最終審査の動画は公開するべきだと、ボクはずっと言い続けてるんですよ。

小林 たしかに豪さんからはずっと言われてて。その通りだと思ってて、毎年考えてるんですけど、ただつい最近も「最終面接の動画、私は公開しないでほしいんです。公開するならミスiDに出てなかった」とある子に言われたり。結構、というかちょっとみなさんの想像を超えるほどセンシティブな内容の話をここでさらけ出してくる人が多くて。毎年『NONFIX』で番組一本できそうなくらいディープな人生の子も来る。上手につまんで編集するくらいならできなくはないんですが、人によっては核を捨てることになっちゃうので。悩んでます。でもたしかに、最終選考は準備している人としてない人の差が出ちゃう。

大森 とは言っても、準備してる人がみんな良い成果を出しているというわけじゃないんですよね。行き当たりばったりの方がずっとよかったりもする。

小林 そうなんですよね。私はみんなみたいに凄い人生送ってないし、とかもある。そんなのも全然いいんです。行き当たりばったりとか、薄っぺらい人生なりのおもしろさだって絶対にある。そんな中で言うと、今年もし「パーフェクト準備賞」というものがあるとしたら、やっぱり準グランプリの十味な気がします。

大森 うん、美しかった。

小林 プロジェクターを使って、高校時代に彼女が名をあげた「踊ってみた」の、この面接のために撮り下ろした映像をそこで流して、そのプロジェクターの前でリアルで「踊ってみた」を踊った。つまり選考委員に、二人の十味の「踊ってみた」コラボを観せたんです。メディアに流通する十味と本名の大学生の十味、なんですね。もう完全にアートで。

吉田 それを公開しないのは本当にもったいないんですよ! 彼女はちょうどミスiDの選考中に脚光を浴びたんですよね。

小林 はい。7月のセミファイナル発表直前の「ヤングジャンプ」の巻末グラビアデビューで、最終面接前の10月に初表紙。売れていく本人と戸惑う19歳の素顔の間の揺れて動いている気持ちがその踊りに表現されてて、しかもほんとに完成度がもう。自分の中で「踊ってみた卒業」というのもあったのかも。時間も10分でしっかり終わって、全員の胸を打った。知名度ってミスiDにおいては必ずしもプラスではない中で、毎日の丁寧な呼びかけでファン投票でもぶっちぎり1位になった上に、最終のパフォーマンスにも手を抜かなかった。だから、「十味、準グランプリか。まあかわいいからね」と言われるのが悔しいんです。いやかわいけどそんだけじゃないんだよって。

大森 さっきから言ってる”かわいだけで選ばれた人”じゃ絶対にない。かわいいが一番じゃないんですよ。逆にかわいいってどれだけたいへんか、それが伝わりました。

小林 グランプリを本気で獲りに来てて、準グランプリですら本気で悔しがってるのもカッコよかった。

■ミスiD 2019 歩那 きのしたまこ 詩島萌々 頓痴気さきな 中野たむ 中森千尋 眉村ちあき 水沢柚乃

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小林 「ミスiD2019」は、グランプリ含む、その年の正規の「ミスiD」です。ミスiDはうようよいると言われますが、毎年正規のミスiDは10人前後。ジャンルの幅を考えると、ここに入るのは相当なことだと思います。最終選考会議でも全員が認めないとここに入らないので、もう自信を持ってください、と。こんなにめんどくさい選考委員たちを納得させた人たちなんで。
歩那はもうミスiDならではですよね。看護士なのにロリータを愛し、タバコを吸いながら愛車のインプレッサを乗り回す。インプは『頭文字D』の影響です。ほかのオーディションで選ばれる光景が想像つかない。特に女性選考委員に人気凄かったです。

大森 自分の美学を持ってるんですよ。これで目立ってやろう、みたいなのじゃなく、ロリータも、走り屋も、看護師も、全部、生きていくため、自分のためにやっていることなんです。そこがすごい。かっこいい。バイセクシャルだってそう。そう生きるしかない人なんですよね。で、これだけの情報量をもって過ごしているのは絶対にたいへんなはずなのに、涼しい顔してる(笑)。

小林 全部に彼女ならではの必然性があるんですよね。本人は最初、それを武器だと全く意識してなかったのがほんとに凄い。

大森 この子が持ってる武器の一個でもいいから欲しいっていうアイドルの子はいると思うんですよ。それくらい。

小林 こういうのをミスiDの本質でもある「多様性」って言っちゃうのは簡単だけど、気づいてないかもしれないけど、あなたがどうしようもなく持ってるそれは、魅力で武器なんだよと。そういうメッセージのような女の子だったなと。きのしたまこも、今回誰も予想してた人はいないんじゃないかと思うんです。魅力を一言で伝えるのがすごく難しいから。

 

吉田 最終面接でのトークがすごくよかったんだけど、その良さを外に向けて伝えなきゃいけないはずのミスiDフェスというお披露目の場で、イマイチ結果が出せなかったことに本人はすごい凹んでいて。これは小林さんのフリ方にも問題があるんですけど、小林さんがそういう子を紹介する時に「この子はすごく面白いんですよ。期待して下さい、さーどうぞ」って、ものすごくハードルを上げてくる(笑)。

小林 あはは。ほんとすみません。

吉田 やりづらくなるだけなんですよ、あれ(笑)。今後はハードルをさげてください。

小林 ついあげちゃうんですよね…….下げます、頑張ります。でも、僕、滑っても好きなんですよね、きのした。ルックスとかスタイルがとバラエティ的なトークスキルとか、そういうわかりやすさゼロじゃないですか。方向性としては2015グランプリの水野しずに近いと思うんですが、しずはジャンルが「水野しず」でしかなくて、世間的な売れ方とは違うレイヤーでもはやわかりやすく存在できてる。あそこまで行けば完全に成り立っちゃうんだけど、まだまだグズグズしてる。彼女みたいな子がブレイクするには、相応の時間は必要ですよね。

そういう肩書が作りにくい子をどうすればいいのか。歩那なんかもそうで、今後、たとえばじゃあ看護師をやめてロリーターモデル一本でやってく、となると本人の魅力が何分の一か消えちゃうわけですよね。あの過酷な環境でカオスに生きてる魅力をどう真空パックで伝えるか。ミスiDの今後の課題なんです。どこかの事務所に入れて終わりじゃしょうがないので。

―― 賞を取った後の女の子の進路や展開ついては毎回、考えてるんですか?

小林 …….あんまり考えてないですね。

吉田 そこをちゃんと考えてたら、ミスiDはこんなに事務所ともめてるような子は選んでないんですよ。毎年、選考会議の最後はみんなでグランプリやミスiDを決めたあと「あとは小林さん任せました。事務所と戦ってください。以上!」って感じなので(笑)。

大森 応援するって(笑)

小林 でも基本はもちろん仲良くしてますよ。そう言わないと事務所からマークされちゃうので(苦笑)。でも戦うところは戦いますけど。

吉田 「ミスiDはグランプリをとっても売れるわけじゃない」とはよく言われていて、それはグランプリをとってもすぐに稼働できない子を選びがちで、稼働できないのにはいろいろな理由があるわけですよ。逆に言えば、簡単に売り出しにくい、他のオーディションでは勝ち抜きにくい子をあえて選んでいる部分はありますね。

小林 う〜ん、ほんとはすぐにでも出て行ってでかくなってほしいんですけどね。初代の玉城ティナみたいなのは奇跡的に幸福なパターンでしたが、それくらいに。
ミスiD2019まだまだいます。中森千尋はどうですか?

吉田 かなり厄介なタイプですよね。いい意味で。すごい面白い。

小林 こんなにかわいいのに厄介という、まさしくミスiD黄金パターンですよね(笑)。実は昨年「女子高生ミスコン」の関東グランプリにもなった子なんですけど、「女子高生ミスコン」はかわいいJKを探す王道系ミスコンで、その頃から「中森千尋はミスiDに出るべき」ってネットでは言われてて、ずっと気になってたんです。そう言えば、あまり語られてないですけど、授賞式当日に途中でフェイドアウトしたのはミスiDの歴史で初めてです。いや、オーディションの歴史でもそうはいないんじゃないですかね。ステージで、ミスiD2019が十人、彼女も含めて発表され各自がコメントを言い終わったあと、気づいたらいなくなっていて。ガチで見失いました。

吉田 「事前に授賞式が終わったら帰っていいって小林さんから聞いたから」と言ってましたね。

小林 正確に言うと、前日か前々日に「授賞式終わったら帰ってもいいですか?」と連絡が来てて、ほんとは正規の受賞者はその後記者会見があってそこだけは当然出てほしいんですけど「中森さんはミスiD受賞者なんで記者会見出てください」とも言えず……。どこかで「まあそうは言っても、受賞すれば帰るってことはないだろう」って思ってたんでしょうね。そこがダメだったんです。彼女からしたら、YES or NOなんで。でもほんとに「帰る!」って展開は正直まったく予想してませんでした。

大森 ミスiDでは、世の中の当たり前なんてほんとにないもんね。

小林 スタッフが追いかけてくれて、やっと見つけた場所が、講談社を出たとこにある地下鉄に降りるエレベーターわきの茂みで。猫みたいにうずくまってて。で、「でも帰っていいよって言いましたよね」って言われて。どきっとしました。「ごめんね」って素直に謝って、結局10分くらいいろいろ押し問答して。結局「記者会見だけお願いします。そしたら帰っていいんで」と頼んで戻ってきてくれたんですけど、写真ではまあ顔ぜんぶ隠してますね(笑)。

授賞式後の記者会見フォトセッションでの写真。後列右端が中森千尋

大森 中森さんみたいな子って、成功して何かを掴みそうになると逃げたくなるんですよ。それすごいわかる。

小林 そうなんですよ。グランプリになれなくて嫌になって逃げたわけじゃないんですよ。そこがすごいし尊いなと。むしろ好きになりました。

吉田 ツイッターも目が離せなくて毎日追ってますよ。本当に危うくて、六本木の路上で錯乱して過呼吸配信をしたりとか、ゲロ吐いてツイキャスしたりとか。

小林 最近、グランプリの友望とめちゃくちゃ仲良くなったみたいなんです。「東京に来てはじめて友達できたかもしれません」って友望も言ってました。

吉田 いまにも逃げそうな二人が(笑)

大森 一番逃げそうな二人が誰のアシストもなく仲良くなったんだね。いいね。

小林 二人といえば、姉妹の応募も増えています。

吉田 ただ、姉妹で受けてどちらも結果を残すケースは少ないんですよね。

小林 その意味では、頓知気さきなは、最初、今ブレイク中の戦慄かなの(ミスiD2018 サバイバル賞)の妹という話題が走りましたけど、最終面接ではその関係性をきちんと語ることで、彼女の個性がちゃんと見えたのが勝因でしたね。

吉田 あの頃、姉との精神的距離が広がっていて、姉妹でちょっといろいろあった時に、ボクと小林さんが説得を任されたんですが、結果ボクの説得はほぼ響かず、小林さんの地道な説得で危機を乗り越えたことがあって。あとで聞いてみたら「豪さんは姉派だと思ったので」と言われて(笑)。

大森  「みんな姉の傘下なんですよ」って言ってましたね。

小林 冷静に「何派」とか「何側」って言うのがヘンですよね。政治家みたい。可愛いだけって見られがちだけど、実は冷静で奥が深くて頭おかしい。

吉田 姉と同じ環境で育ってきた人なんだから、そりゃ普通じゃないですよね。

大森 頓知気は逆に顔のかわいさがどうしても先立つから、どうやって戦っていこうかって悩んでると思う。いろんなダンスをやろうとして、でもやっぱりダメだとか。まだ自分のスケールが見えてないところはあるんですよね。

小林 中森もそうだけど、「かわいから選んだんじゃないか」って言われるのはこういう子ですよね。中身はすごくグラグラしてて面白いのに、パッと見のビジュアルが華やかだから、そういう風に見えちゃう。中野たむはどうですか? 女子プロレスラーでアイドル。この子はミスiDという場では珍しくまっとうなメンタルで。

吉田 地下アイドルでの苦労を経て、ようやく何かを掴みかけた状態ですよね。

小林 スターダム★アイドルズを旗揚げしました。

吉田 観に行った感想としては、中野たむ個人は安心して見れるし期待もできるけど、団体としては不安な部分もあります。なんで大仁田厚ターザン山本がメインなの?とか。

小林 僕もそこは思いました。なぜターザン(笑)。でも彼女のアイドル力はすごいですよね。一人で周囲を変えられる。

大森 自分のいる場所にまだ満足を感じてないからここに来た、という感じはありそうですね。

小林 「誰かの明日を元気にするのがアイドル」っていうコンセプトでいうと、ジャストだな、って思うんです。

 

大森 私、今回カメラテストと最終面接の両方でガチ泣きしましたから。

小林 一人プロレス。講談社のスタジオ、下コンクリなんですが、そこでバンバン床叩いたりして。終わったら手真っ赤に腫れてて。一ミリも手を抜かなかった。

吉田 大森さん、「今年一番感動した見せ物が中野たむさんの一人プロレスです」とまで書いてますからね、選評に。

大森 あれ見ただけで今年満足でしたもん。

小林 そして眉村ちあき。グランプリではない。でも堂々のミスiD2019でした。

吉田 「顔の時代を終わらせる」って意気込みで挑んで、グランプリを取れなかったからガチで凹んだみたいですけどね。でも、一瞬で元気になるのがさすがでした(笑)。

小林 顔、かわいいんですけどね。ただ、VIVA LA ROCK2019の出演が決まったのはミスiDからのプレゼントでもあるので(笑)。今年から選考委員をお願いしたビバラロック/ポップ主宰の鹿野淳さんが、最終面接のあとすぐに「ミスiDで眉村さんを観て出演オファーを決めました。逸材です」ってメールくれて。彼女の出世番組になった『ゴッドタン』にしても、ミスiDの選考委員つながりの豪さん佐久間さんのホットラインで。彼女の場合は、実は過去にミスiDを受けて落ちてたっていうストーリーがあるじゃないですか。他にも眉村さんがミスiDにこだわった理由があるんだけど、あまり表に出てないので、見ている人との温度差は少しありますよね。

――大森さんが、眉村さんの動画で言った「同世代くらいだったら潰れそう」ってコメントは凄かったですね。

大森 あれは豪さんに言わされた感はあります(笑)

小林 言わされたコメントとしては秀逸すぎます(笑)。

吉田 単純にボクが眉村さんへの感想を聞きたかったから、大森さんにコメントを振って。

大森 あのコメントは、才能がどうこうというよりは、持ってるパワーの話なんですよ。あんなに自分を信じ込む力なんて普通は持ってないから、みんな揺らぐんですよ。眉村さんを見ると、ああじゃないとダメだって思わされちゃうから。そこが凄いっていう話です。

吉田 その力は異常ですよね。

 

小林 もともと才能はあったとしても眉村さんが確変したのって、この一年くらいですか? 2年前に応募してきた時って、誰も覚えてないじゃないですか。書類も覚えてないんです。

吉田 去年の夏に開催された「武道館アイドル博」で会った時の印象も、ほとんどないんですよ。ボクが担当したトークコーナーのアイドル100人組手のうちの一人って感じで、ちゃんといじるまででにはいかなかった。だから、その後の1年で一気に伸びたんですよ。

小林 なんでもそうですが、ミスiDも、成長曲線の時に出るということがすごく重要ですよね。オーディションに落ちるのって、単に「タイミングじゃなかった」っていうのもすごくある、と最近は思います。そういう意味で、詩島萌々は、実は去年書類で落ちてる子です。書類で落ちた子が翌年ミスiD受賞、って、これも初めてなんじゃないでしょうか。

大森 すごくかわいくなったのか、単に私たちが全員見逃したのか。

小林 どっちもかもしれない(笑)。でもたしかに彼女かわいくなるとんでもない努力をストイックにしてるようなんですけど、一ミリもそれを見せないんですよね。ひたすら一見ただただかわいい(笑)。

 

大森 すべての表情や仕草までね。内面を見せない、その表面的な感じがすごい好き。

小林 このままでも全然いいんですけど、これでかなりヘンな中身が見えるようになってきたらそれもそれで恐るべし、と思うんです。そして、グラビアアイドルがミスiDに挑戦して結果を出すのは難しいと毎年思う中、水沢柚乃が結果を残しました。

吉田 毎回、グラドルの子もいるはいるんですが、なかなか爪痕は残せてないですよね。そんなこともあって今回はグラビア担当の大物選考委員を一人推薦したんですけど。

 

小林 そうですよね。ちょっと色々あり実現せず…….。そんな中、水沢柚乃は、抱えているものがうちにこもってたり鬱屈していて、一方で自分で「#10秒グラビア」を発明してバズってフォロワーを増やしたり、インディペンデントな感じがミスiDっぽかった。グアムよりも部屋で水着が圧倒的に似合う感じとか(笑)。グラビアの子って派手に見えるけど、実は暗かったりコミュ下手な子が多いんですよね、特に最近は。彼女はそのタイプの筆頭だと思ってるので。新しいグラビアを作れる子だなと。

■きみがいる景色が、この世界~昼~」賞
伊藤笑 坂田莉咲 るかぴ

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――これは毎年ある、その年のキャッチコピーを冠した賞ですね。

小林 そうです。去年は「きみがいる景色が、この世界」でした。なのでその言葉まんまを感じる人にあげる賞で、ミスiDにとってとても大事な賞です。坂田莉咲は、芸能界に居ながら報われなかった組で、頓知気なんかは「私、坂田さんの顔が一番好きです」と言ってはばからない、正統派の美少女。ただ本人がなぜかもう終始自信がないのが見ててすごくわかる子で。ミスiDも「ずっと見てたけど、私なんか応募してもダメだと思ってた」と。でも、そこがだんだん魅力にも思えてきました。心が折れてる感じが。

吉田 芸能界は成功しても心が折れるものなんだから、成功してなかった組は相当折れまくってるはずなんですよ。

小林 伊藤笑は、18歳とは思えないくらい昔の音楽や映画にも相当造詣も深そうなんですけど、その辺はさほどアピールせずに、最終面接では白いワンピースである人に捧げる踊りを踊ってくれました。場が静まり返った。こういう女の子の無垢が報われる世界であってほしい。

■「きみがいる景色が、この世界~夜~」賞 藤條ポリウレタン佑蘭 眠り 望月める

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小林 望月めるも独特なやっかいな子で、元いたアイドルグループをファンとの繋がりでクビになり、ツイッターでも荒れてたし、ミスiDのカメラテストでも帰りのバスの時間だけ気にしてたり。でもそれがなんとも言えず嘘のない感じで良くて。で、このオーディション期間で劇的に成長しましたよね。授賞式では「人間怖い、早く帰りたい、と(カメラテストで)言ってた子がここまで成長できた。ミスiD受けてよかった」ってスピーチして。ちょっと泣きそうになりました。女の子の成長速度に驚いた一人でした。

大森 みんなファンになってた。きっと誰かの力になれる子。

吉田 整形をオープンにすることで誰かの力になるみたいなこともありますよね。ツイッターの不穏な感じもいいです。

小林 いいパンチライン多いですね。

吉田 整形前の画像もふつうにかわいかったんでけどね。

大森 もはやもう顔がどう変わっても関係ないのかなと。どっちだってかわいい。今はたぶんみんな自撮りの顔にしたいんです。なんであの顔じゃないんだろうってずっと思って、アプリで加工した顔に自分を近づける。

小林 確かに、去年のさやか(ミスiD2018ファイナリスト)がそうだったけど、最近かわいくなったって言う時に「自撮りの顔に近づいた」って言い方をしますよね。

大森 ロックですよ。なりたい自分になる。なりたいものを自分の側に引きずり下ろす。それはロックだからね。

小林 かわいのか、かわくないのか、前がどうだったのか。もはやどうでもいいってことでしょ。かわいくなりたい存在として、誰かを励ませている。ミスiDは、ロールモデルを増やしたかったというか、成功のパターンを増やしたかったんですよね。アイドルだって橋本環奈みたいな「素材だけでもう勝ち」な人からいろいろいる。望月はもう一つのロールモデルになりつつありますよね。

大森 るかぴはね、可愛くなった。そして意外に客観視ができてる。

小林 そうなんですよ、結構冷静なんですよ。カメラテストから最終面接まで「(自分が)好きな人」のことだけ喋って、そのワードだけ聞くとバカッぽく見えるんですけど、どこかでちゃんとそんな自分を俯瞰できてる気がしました。実はマーク・ライデンが好きだったり、アート志向ですしね。藤條ポリウレタン佑蘭依も良かったです。

吉田 最終面接とかボロボロでしたけど、それでも響いた。あそこで爪痕を残すと、ちゃんとどこかには入るんですよね。

小林 この子は作戦も何もなく素直に自分を出したことで成功したタイプですよね。

大森 用意してきたものはボロボロだったけど、全部出して帰ってくれた。

小林 十味レベルでやれるなら別ですけど、たいした作戦がないなら全部さらけ出してくれた方が好印象ですよね。人生劇場を感じました。眠リも、ちょっと神秘的な小動物のようなルックスだし、早稲田(※実際は慶應)の考古学研究会にいたりするんで知性もあるんですけど、とても未完成で人間らしくもあるというか。いい意味での空回りっぷりをずっと見ていたいなあという。共通するのは、この世界にいてくれてありがとう、という気持ちですね。まあ、これはもはやファイナリストまで来たら全員への感情なんですけどね。

■実行委員特別賞 莉音(りーめろ先輩)

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小林 莉音(りーめろ先輩)はとても惜しかった気がします。

吉田 カメラテストは最高でしたよね。「なんであの子が結果を出してないんだ!」ってネットで怒る人がいるような時は、だいたい最終面接でイマイチだった人なんですよね。それが伝わらないから、ボクが選評で説明するはめになるっていう。

小林 彼女は、最初のカメラテストで途中までは普通のちょっとギャルっぽい子だったんですけど、途中から期せずしてどんどんおかしな感じが出てきて。おもしろいので是非動画観てほしいんですけど(笑)。そのせっかく垣間見えたすばらしいポンコツ具合が、ちょうど『モンスターハウス』のクロちゃん絡みでバズったことで、ちょっと影を潜めちゃった。そりゃあしょうがないんですけど、クロちゃんがすごすぎるので(笑)。ただ、あのカメラテストのポンコツ感のまま最終面接を迎えてたら……って気持ちはあります。

吉田 オーディション中に『モンスターハウス』が決まったという流れでしたね。最終面接の時は、モンスターハウスから来てモンスターハウスに帰るという感じでした。クロちゃんとセットで語られるポジションになってしまったのはちょっと惜しいです。

小林 そんなわけで、まだまだ可能性は感じるので特別賞でした。

■メタモルフォーゼ賞 ケビンはやし さくらこ れいなぷーどる

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小林 メタモルフォーゼ賞は、一番最初に決まりました。女子選考委員の評判が特によかった人たちで。これは当初「美意識賞」という仮の名でした。

大森 はい、ちゃんと綺麗にしてる人への畏怖と尊敬の賞です。見てるだけで私も頑張らなきゃと思える内と外の美意識を持った女の子たち。

小林 レイナプードルは、カメラテストから最終までで10キロくらい体重絞って、別人になりました。

大森 カッコよかった。

小林 自分で言っているので言いますが、セミファイナルの直前に流産したり色々あって「どうしますか?」というやりとりがあって「続けます」と。毅然とした内面の美しさがありました。SM嬢のさくらこは、頭でSMを捉えられる非常に賢い女の子で、SMとアフタヌーンティを嗜みますという上品さもある、完全なセックスエリートです(笑)。ケビンばやしは、一年前の精神病棟への監禁から立ち直った絵を描く女の子。セミファイナルあたりから絵がかなりバズって。そんなこともありグランプリを狙ってたらしく、ストレートに悔しがってましたね。

大森 授賞式のあと「私、靖子ちゃんに嫌われちゃったのかなぁ」って言ってたみたいなんですけど、そんなわけなくて大好きですよ。絵も本人も大好き。

小林 いっぱい賞もとり、ある意味今年最初からミスiDを見てた人の一番印象に残ってる女の子なんじゃないかと。それだけに悔しいのかもしれないですけど。

大森 でもみんな自分で納得して生きてる女の子の美しさですよ。

■クリエイティブは最高に優雅な復讐である賞
雨乃水面 ケビンはやし 高橋あやな 眉村ちあき 里帆

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小林 雨乃水面(現・あおぴ)は才能に疑いがない。ただ4人のユニットでやってるということの分かりにくさは最後まで少しあったかなと。でも一人格をユニットで、っていうのも全然もありなのかなって。

吉田 まぁ、CGもAIも出てるぐらいだし、あれもユニットでしたからね。

大森 4人でやっているプロジェクトの完成度の高さと、でもこの表に出てる人の魅力で成り立っているのに、この人の作品とは言い切れないってのが、どう捉えていいのかが最後までどうしてもあって。やってることも本人も好きなんですけどね。

小林 僕も個人的に彼女のルックスも表現する写真の世界観も文章も大ファンです。もはやバラして考えられないくらい。高橋あやなも、声や文章に加えて、想定外の音楽的な才能をミスiDを通して見つけてくれたし、里帆は、イラストレーター(「ふゅ」名義)としての才能は疑う余地ないのに、あえて顔晒して出てきてくれた。とにかく彼女のひとことイラストのキャッチー感はすごいし、みんなブレイクしないとおかしいレベルだと思います。

■サバイバル賞 相笠萌 あにお天湯 舵木まぐろ

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小林 「サバイバル賞」は去年戦慄かなのが受賞した賞なんですが、一年前の彼女にしても”少年院出身”というワードは出るには出てたけどここまでのブレイクは誰も予想してなかった。なので、今年の3人もこの一年が大事だなと。でも、なんとなくですが、この終末観溢れる世界を生きていけるんじゃないかという期待を込めた賞です。
相笠萌は、”早すぎた中井りか”的な頭の良さもあるし、元AKBという肩書きとプライドや照れを完全に捨てて生まれ変われれば。舵木まぐろは変わり者で、それにふさわしい不穏で強くて美しいルックスをしてる。あにお天湯は、その肉感的スタイルとアートセンスをデンジャラスな方向で正しく融合してくれれば、唯一無二の存在に化けるのではと。

吉田 あにおさん、すごくいいビジュアルなのに胸の大きさを気にしてるのか、いつも似合わない服を着てるから、この前のミスiDイベントの時、トレイシー・ローズ(80年代USポルノのエース)的なファッション含むビジュアルを提案したら、自分なりにそっちに寄せてくれて。すごい良かったです。

小林 あれ最高でしたね。あえて彼女たちの共通項を挙げるとしたら、「不遜」とか「不敵感」。

■インバウンドアイドル賞 みしゃむーそ

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小林 みしゃむーそは、素晴らしかったと思うんです。完全に確立したビジュアルはもちろん、ほんとに真面目で努力家で。ミスiDという文脈抜きに誰にでも楽しんでもらえる、刺さる子ですよね。どうしてもハイコンテクストになりがちなミスiDにおいて、めちゃくちゃローコンテクストな女の子。

吉田 意外に歌も良かったですね。

小林 明らかに、いわゆる同調圧力のある今の時代の女の子としては生きづらいと思うんですけど、なんていうかいい子で。彼女みたいに周囲とズレを感じてる女の子はどんどんエントリーしてほしいです。誰かの生きたかをなぞらない女の子。みしゃむーそは絶対に世界にウケます。

■性別なんてことよりぼくたちにはもっと大事なことがある賞 一条あおい 佑生

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小林 ミスiDではずっとあるジェンダー問題。今年は「性別なんてことよりぼくたちにはもっと大事なことがある賞」というのを作ったんですけど、これは受賞者のひとり一条あおいのツイッターの言葉から取りました。彼女は、いや彼は、生物学的には男なんですけど、ジェンダーとしては完全に女の子。もう一人の佑生というのは逆に見かけはボーイッシュですけど女の子。で、ちょっと少女漫画的にチャラい。でも文句なしにかっこいい。真面目なジェンダー論の場ではないので、むしろファジーであることが保証される世界こそが理想だと思ってるので、タイプの違う二人になりました。

吉田 ちなみにミスiDは、初めからジェンダーなんでもありというのではなく、もともとゆるいとは言え規約はそれなりあって、でもそこからはみ出た子も本人が魅力的ならOKとした結果、どんどんカオス化していったわけですよね?

小林 そうです。規則が無意味だなと思う魅力的な人が出てきてくれれば、どんどんアリになります(笑)。

吉田 年齢制限もどんどん緩くなってきて、既婚OKになったのはミスiD2014特別賞の中村インディアからでした。

小林 はい、あんな越境者のような面白い子を、既婚を隠してたというだけで失格にするオーディションでいいの?って話になり。

吉田 ジェンダー問題で言えば、男子がファイナルまで進んだのは、2017のゆっきゅんとおおくぼけいから。

大森 ミスiD後のゆっきゅんは最高ですね。一度ミスiDで落ちたことから全て、ちゃんと糧にしてる。どんどん自分になっていった。

小林 そういう、ちゃんと考えている人なら男の子でも全然来てくれてもいいと思うんですけど…….。

―― 一応、ジェンダーが女性でないといけないんですか?

大森 どうでもいい、どうでもいい。いいなぁって思えればなんでもいいんですよ。

小林 口にしちゃうと野暮ですけど、ようするに「なるほどね」って思わせてほしいんですよ。こっちも正解を知ってるわけじゃないので。逆に、ジェンダーをガチガチに考えすぎて、LGBT的枠みたいなものを作ってしまうのも嫌で。多様性に限界や壁はないはずだから。

文芸賞 安住日希 いとう

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小林 ものを書く人も増えてますよね。

大森 安住日希も、私はDM枠なんです。

吉田 DMでも、読み応えのあるすごくいい文章を書くんですよ。

大森 起きてることはなんでもないことなのに、文章がすごい大ごとになってるのがいい。

小林 いとうも文章がほんとに丁寧でうまいし、今回からnoteさんと提携したこともうまくいって、女の子たちの長い文章を目にしやすくなりました。文章上手い人、断然増えましたよね。この中から文芸誌や文章媒体で連載するくらいになってほしいし、そろそろちゃんとした小説を書く人の出現も期待してます。それなら最初から群像新人賞に応募しろよってなるけど、いとうとか安住なんて、写真を撮るセンスも被写体としてのセンスもある。女の子の最大の強みはある種のバランスだと思うので、書くだけに専念するより、自分も表に出しながら書くことも勝負する、でもいいと思います。こっち(ミスiD)発でそっち(文芸)に行く、っていうのも絶対ありだと思うんで。

■ぼく(選考委員)たちの失敗賞 相沢あゆみ エアイン きのしたまこ 詩島萌々

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―― 「僕(選考委員)たちの失敗賞」は、「復活賞」ということなんですね?

小林 選考委員が見逃してしまってごめんなさい、という意味です。

吉田 書類や途中で落ちた再挑戦組で、その後ちゃんと評価された人たちってことですよね。

小林 そうですね。きのしたやエアインはそもそも書類で落ちてます。

吉田 最初に言った、アポなし面接での復活組ですね。

大森 エアインはるろらり(ミスiD2018グランプリ)の美大の後輩。で、授賞式でエアインの生写真を買ってたのをエアインに教えたら、号泣してた。かわいかった。

吉田 アイドル性が妙にあって。エアインのカメラテストはほんとによかったですよ。自作の曲と動画に合わせて歌って踊るんですけど、曲も歌もいいのに、歌詞もうろ覚えで失敗だらけで、そのダメな部分含めてアイドル性が高かった。そして期待が高かった分、最終面接は結果が出せなくて勿体無かったです。

小林 真面目すぎましたね。相沢あゆみは、ミスiD後、綾乃あゆみという名前に変えて研音に入りました。実はここであんまり言えないことなんですけど、面接が今年一番拍手喝采を浴びた子です。

吉田 バックボーンが素晴らしいんですよ。

小林 そのバックボーンゆえに苦しんでもいたんですけど、その葛藤がこの人格を作ってるのかなって。

吉田 ディズニーの「アリエル」の歌を歌うってミスiDでは割と多いんですけど、彼女の「アリエル」が本人の立場と重なって一番響きましたよ。

小林 歌詞がもうね、グッときて。なので、いつか敬愛する水樹奈々さんくらいに大きくなって、話せなかったバックボーンを堂々と表に出してほしいです。

■太陽と月とフォトジェニック賞 葵 ura しろいこ 中明佑里花

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小林 この賞は、SNSで勝負するミスiDっぽいカテゴリーですね。去年だとギャンパレに入った月ノウサギがこの賞でした。被写体と言われるモデルでも読モでもない、SNS独特の肩書きが、たぶんミスiDでは一番応募が多いんですよ。上手なカメラマンに撮られた盛り写真なので、エントリー書類こそ通りやすいんです。けど、そっから先が難しい。その意味ではこの4人は単なる被写体レベルじゃなかった。

吉田 被写体系の人は、いざ会ったら別人ってことも多いですよね。

小林 uraは最初それをすごく気にしてました。きっと写真と別人じゃんってdisられると思うんですけど覚悟して出てきました、って。

吉田 全然おんなじですよ、って何度も言いました。

小林 ほんとにほぼまんまですよね。でも、写真はたしかに素晴らしくて。写真が上手すぎたり写りが良すぎると逆ハードルになるのかもなって。

大森 中明佑里花ちゃん、単純にかわいくてエロかった。

小林 ゆるっとしたセーターで踊ってくれたんですね。ティックトッカーだったり、一見、ミスiD的な陰の要素ゼロなんですけど、実は大森靖子や山戸結希ファンで。でも、今の女の子って陰と陽が円でつながってるんだと思うんですよ。陽キャ陰キャって分けたがりますけど、絶対分けられない。どっち成分も含んでる。明るい子がずっと明るいわけじゃないし、暗い子がずっと暗いわけじゃない。葵やしろいこはその最高の例です。陰のあるビジュアルだからって決めつけていくと痛い目に合うよと。

■賞を取らなかった女の子たちだってつまらないわけがない

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―― ミスミスiDにはみんなで話し合う賞のほかに、選考委員が独断で選ぶ「個人賞」もあります。

小林 豪さんのモネ、大森さんの湖愛、小林の琴海りおは、公式サイトの選評に書いてあるので是非それを読んでください。辛酸なめ子さん絶賛のマキシマムザフナタンとか、佐久間宣行さん賞の福井夏とか、個人賞は各選考委員の気持ちが込めれているので、それぞれの選考委員がいるところで話したほうがいいと思います。で、そこからも漏れたファイナリストでも、個人的に惜しかった人、ポテンシャル感じる子、いっぱいいるんです。ほんと言うとセミファイナルにだっている。相磯桃花なんて天才だと思います。ミスiDの今回の戦い、あえて戦いと言いますが、その戦い方の中でハマらなかっただけで。そういう意味では、漏れた人の話をちょっとしたくて。個人的には、たとえば鷲野はるなとか。

大森 よかった。綺麗。そしてエロい。

小林 美人顔なのがちょっと損だなぁっていう気がしました。

大森 本人がしたい女の子のオシャレな格好と顔立ちとが一致してないんですよ。美人すぎて。あと胸がありすぎる(笑)。

小林 ジョークみたいなレベルですよね。今ミスiD公式サイトに載ってる水着写真とか。ラス・メイヤーが生きてたら絶対彼女を主演で起用してくれたと確信してます。

吉田 『ファスター・プシィキャット!キル!キル!』のバイオレンスと巨乳好き監督ですね。

小林 一人でラブホ行って写真撮ってたりとか、ひたすら地味でストイックなのもグッときました。既婚者でママゆえの子供や旦那への生っぽい葛藤も溢れ出てて。一回ちゃんと自分の武器を整理できればおもしろい存在だと思うんです。

吉田 落魄も好きだったんですよね。大量に送られてきたDMの内容がよかったです。

小林 内容はどんなのが多いですか?

吉田 独り言。100通くらい連続で届くんですよ。

大森 でも、読めるんですよね。

小林 私小説を書いたら良いのにね。顔も雰囲気あって好き。

吉田 自分では終始全否定でしたけど、いい顔だと思います。

小林 静真なんかも同じタイプですよね。ルックス全否定ですけど、いや全然かわいいじゃん!って。よだだも、最初はちょっと痛いファッション女子みたいなノリもあったけど、生身感が出てきてよくなった。あと単純に顔の造形がいい。愛される顔だなと。

大森 うん、かわいい。

吉田 すごく味わいのある顔だと思います。

小林 結城つむぎなんかも、この間も「私の中ではグランプリでしたって」ってあるミスiDファンの女の子に言われました。ちょっと日本画問題が最初、尾を引いちゃったのがもったいないですね。絵を描くか描かないかみたいな問題が先にきちゃったんで、もっと別次元で評価されてもよかったですね。ツイッターも最高だし。

大森 爪が剥がれるみたいのも良かったですね。

小林 note賞の芋如来メイだって、ルックスもいいし、note賞なんで文章や写真のセンスを評価されてなんですけど、加えて声もとても良くて。

吉田 いいんですよね。たまとか選曲センスもよかったです。

小林 そういう存在がほかにもまだまだいっぱいいます。松葉絢香も「アメリというあだ名だけど映画の『アメリ』は未見ですとか」、なんだかわかんなくておもしろいんですけど。

吉田 ボクが大阪でイベントやったときに、美人だしポンコツな面白さもあったしで推薦したんですけど、ここでは終始アイドルらしいことしかできなかったかなと。

小林 その意味では真城まゆは爪痕を残しました。最終面接で、もう制限時間を過ぎて、その日の会場も閉めなきゃいけない時間ギリギリで、みんな慌てて片付けし出してるのに、「ちょっと一言いいですか」ってそこから15分くらい話した。全員で机運んだりしてる中ですよ(笑)。メンタル強すぎにもほどがある。元bis編集長で選考委員の中郡さんが「いかにも変わってますって子よりも、一見普通で、内面に狂気を持つ子が好き」という理由で、自分の個人賞に選んでましたからね(笑)。いろいろあったフィンも立ち直しつつあるので幸せになってほしいし、最年少の13歳の飛車仔なんかは、もう少ししてからまた受けてもいい気もします。もともとミスiDオタクで。

吉田 飛車仔さんは、イベントに絡んだときに異常な面白さでした。

小林 校内最強の空手家の先輩と派手に喧嘩して、退学して学校変えてるんですよね。

吉田 先輩とケンカばかりしてたんだから居場所はなくなりますよ。一見そう見えないけど完全な武闘派ですから。しかも、そのきっかけはヤンキ―漫画に影響されただけ。13歳なのに!

小林 もう強くて可愛いアクションスターになってマーベルとかに出てほしい。夏目詩乃は逆に大人ですが、透明感尋常じゃないですよね。

吉田 大人の良い色気ありますよ。声もいい。

小林 何回も受ける人が多いのもミスiDの特徴なんですけど、ツバサ・ミンミン(原宿眠眠)はよかったですよね。

吉田 再チャレンジ組としてはすごく頑張ったかなと。音楽もいいです。

小林 とにかく、賞を取れなかった子だけでも延々と喋れるくらいみんな魅力的というのは、紛れもない事実。これはほんとに紙一重の、何かのタイミングや運みたいなもので、結局はここからどうするかだけなんです。

■ミスiD2019グランプリ 友望

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小林 ほんとは全員分話したいんですが、これいつ終わるのと思われそうなので、そろそろグランプリの友望の話を。最初はそこまで注目されてたわけじゃなかったと思うんです。小中高全部で不登校になって、「生きるの難しい」とポツリとエントリーシートに書いてる大学一年生の女の子で。

大森 でも、最後、急にやる気を出してきましたよね。

小林 最終面接で、なりたいという女優志望をアピールするために、演技を披露しました。蒼井優ちゃんの映画『オーバー・フェンス』中のあるシーンを演じて。その後、宮﨑あおいちゃんがCMで歌っていたブルーハーツの「終わらない歌」を歌いました。大声で。

大森 話の内容を準備してきたってよりは、勝つオーラを整えてきたみたいな。オーラは出そうと思って出せるものじゃないから(笑)。出そうと思わないと出せないから、出すぞって入ってきた感じがすごいなと思いました。

吉田 いい女優になるだろうなって空気が出てました。

小林 正直、演技の上手い下手より、存在感なり、何かやりそうだって空気の方が大事なんですよね。彼女にはそれは全部あった。

吉田 色々、うまく行ってないなりにも、キラキラした何かはちゃんとある人で。

小林 それですよね。可愛さとか透明感って一瞬でなくなっちゃうんですけど、境遇に呑み込まれてない。

吉田 人生、あからさまにくすぶってる側のはずなのに。

小林 大学ももはや休学してるみたいだし、バイトもラーメン屋ととんかつ屋だったりで、そういうとこだけ見ればくすぶってる一色なんですけど。なぜか全くくすまずにいる。目なんかキラキラしてる。

大森 今っぽさがほぼないですよね。自撮りしたら可愛くなるよ。とか、そういうのじゃない、そのままの。持ってる気持ちと持ってる顔のかわいさ。

吉田 そして、ミスiDじゃないと結果を出せなかっただろうなと思える危なっかしさもちゃんとある人ですよね。

小林 そう、そのバランスが絶妙に完璧なんです。

 

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friday.kodansha.co.jp

吉田豪×大森靖子×小林司 激動のミスiDを振り返る(後編)

ミスiDを続ける理由。そしてミスiDはどこへ向かうのか?

|カルチャー
いま日本で一番目が離せないオーディションとも言われる「ミスiD」。主宰の小林司実行委員長、選考委員のプロインタビュアー吉田豪氏、超歌手の大森靖子氏による鼎談形式で、昨年11月に決まったばかりの「ミスiD2019」を振り返ってもらった前編。 後編では、「沼」と言われる一度入り込んだから抜けられないミスiDの魅力と、今後のミスiDエントリー希望者へのアドバイスまで。

■ルールを後ろにして、人を優先している

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―― 主宰の小林さんはもちろん、吉田豪さんがミスiDに参加したのは二年目(ミスiD2014)からで、大森靖子さんは三年目(ミスiD2015)から。ずっとミスiDを見ている三人から見て、ミスiDのグランプリってどういう存在なんでしょう? 

吉田 まず、普通のオーディションだったらまず選ばれない子がグランプリになっていることに気づいてほしいですよね。声が小さすぎて会話が成立しないとか、大幅に遅刻してくるとか、事務所の問題を抱えているとか……。そういう子たちの可能性に賭けてみるという、普通のオーディションではあり得ない、かなり過酷な実験をやっているオーディションなんですよ。

小林 たしかに……「ほらこれで文句ないでしょ」というマイナスのない人よりは、不安要素はあっても、時代をこじ開けるかもしれない新しさやとんでもないプラス要素が一点あればそれを断固評価する、というのは間違いないので、実験かもしれません。ちなみに、大森さんがグランプリを語る時によく“聖域“という言い方をされるんですけど、あのワード、大森さんはグランプリを語る時しか出さないですよね。

大森 たしかに。「緊張する存在」みたいな意味で使ってますね。

小林 そうですよね。そもそも日本の若い女の子は、何かと気遣いをさせられたり、空気を読んでニコニコしてないとみたいな同調圧力がやっぱりあると思うんです。そんなのまったくくだらないし、本質的なことじゃないのに。なので、そういう圧力に屈しない個を見つけたりすると、ワクワクするし、その究極がグランプリなのかもって思います。

大森 最初にも言いましたが、かわいいけど、かわいいが魅力の一番じゃないんです。歴代のグランプリは確かにかわいさすら超えた何かを持ってると思う。心に聖域を持っていて、尊くて誰も近づけない存在。そこに圧倒的なものを感じる人だけがグランプリになってほしい。

吉田 ミスiDって、結局人に合わせない、合わせられない人たちばかりが集まる場所で、だからこそめんどくささが凄いわけじゃないですか。ボクたちにもこうやってしつこくDMしたり、日記的なものまで送って来たりすることも含めて。でも、あえてめんどくさい子を選んでるところもあるわけですよ。

大森 わざわざ最終面接まで来て「ここにいる選考委員、全員興味ないし」って言って帰るような子だっていますからね。どんだけめんどくさいんだ(笑)。

吉田 女の子同士のディスりあいも毎年の恒例ですからね。

小林 ですね。年によりますけど、東海岸と西海岸のラッパー同士のビーフみたいなディスり合いみたいなのもあります。けど反対に、そういう居場所がない子たちが居られる場所にもなってて。女の子同士で「好き」と言い合える空気は、世間より早かったと思います。2年目のミスiD、2014の時に、いまchelmicoというイケてるラップユニットをやってるレイチェルという子がいまして……。

吉田 それこそボクが小林さんにずっと動画を公開してくださいと言ってるくらい、最終面接が最高でした。

小林 そのレイチェルが垣根を破ったと思ってて。当時の選考委員の山崎まどかさんが「日本でもガールクラッシュ(女の子同士で褒め合うこと)が始まった!」と感動して言ってたのを覚えてます。ハーフでモデル並みのスタイルのくせに、コミュ下手でなんか破天荒で面白い。そしてあまりにド素人すぎて、当時選考委員の岸田メルさんを「メル〜」って呼び捨てにしたり、なぜかtofubeatsさんに突然リプを送ってやりとりしたりして。怖いもの知らずだけなんですけど。その流れで同じ参加者の女の子にもリプを出し始めたんですよ。「蒼波純ちゃん(ミスiD2014グランプリ)ヤバい」みたいな。そのうち女の子たちが「私、◯◯さんが好き」みたいに、賛辞や好きを送りあって、そのまま互助会的につながりはじめたというか。これもふつうのコンテストならタブーなんですけど。

大森 もともと周りから浮いてる子たちだろうから、自分とは明らかに違う人たちが集まるカオスな場所って、ラクだし、繋がればディープですよね。

小林 このカメラマンは危険だとか、この人はヤバいみたいだから気をつけよう、みたいなことも共有できますしね。フリーの子は孤立するというのが一番怖いことだから。

吉田 あとは、本来なら落ちるラインの子でも、何か可能性さえあればどんどん面白がったんですよね。だから、どんどんそういう子がエントリーするようになってきた。あと、2年目が決定的だったのは、前回も言ったけど既婚者をファイナリストに選んだことですよね。

小林 中村インディア。

吉田 既婚者禁止だったのが、結婚を隠して受けた子が出てきて、それをどうするか? と考えた結果、アリにしちゃった。

大森 どんどんありにしちゃったんですよね。CGもありになって。結局、男もありなのか論争になり、まっありかって(笑)

吉田 年齢もちょっと超えてるけど、まぁ、いいかって。

小林 人によって変えていこうってことだけなんです。ルールを人よりも後ろにしているというか、あくまで人を優先させようと。そもそも「抜け道」って大事で、それがない世界って閉塞感しかないなって。インディアがいなかったら、こういう論争も起きなかった。

吉田 あの結果、子持ちの応募者が増えましたね。

小林 もはや「ミス」の意味も消えましたね。

吉田 ミセスでありミスターでもある(笑)。

大森 でも大事なのは、いわゆる「ミスコン」のルールがある上でそこをぶち破ろうとしてる人が来ることかなって。なんでも自由で誰でもきてくださいとなったら、それは違うんじゃないかと思うですよ。

吉田 そういう意味ではボクが初期から嫌だったのが、調子乗った感じの男がちょくちょくエントリーしてくること。

小林・大森 あ〜〜わかる!!(笑)

吉田 なんの工夫もなくて、「いえ〜い、男っす。これって面白いっしょ?」みたいなタイプ。絶対通しません。

小林 ですね、そこだけは意地でも通さない。そこは絶対に勘違いしてほしくない。ルールがあって、ハードルがあった上で、それでも乗り込んでくる意志ですよね。意地でもいい。そこにちゃんと覚悟がほしい。

吉田 あとは美学と。そして再挑戦が多いのもミスiDの特徴だと思うんですよ。

小林 確かにこの執着も普通のオーディションだとなかなかないでしょうね。

吉田 毎回思うんですけど、一回賞とった人はもういいでしょうって。それなのに、なぜ人の椅子を奪いに来るのかと。

協調性がない、コミュニケーション能力がない、はミスiDの特徴

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―― 一回受賞した人でもまたエントリーしてくるんですか?

小林 受賞まではいないですけど、ファイナリストくらいなら余裕でエントリーしてきます。

吉田 そこに物語があればまだいいけど、ふつうに評価された人がもう一回受けるのって何をしたいんだろうって、毎回書類を見る度に思います。

小林 夕月未終という子が毎年受けてくるんですが、そこまで来るとちょっと大河ドラマというか面白くなってるんですけど、よっぽどのアップデートがないとやっぱり厳しく見ちゃいますよね。

吉田 今年のツバサ・ミンミンはだから残ったのだと。あと毎年思うのが、アイドルの子が事務所に言われて来て、爪痕を残せないことも多いんけど、その子が事務所を解雇されたりすると「受けるなら今なのに!」ってことで。

小林 ああ、タイミング問題。

吉田 事務所がアイドルグループのメンバー全員を受けさせるのも良くなくて。向いてる子がいるからピンで送り込むとかならいいけど。

小林 最近はやっとだいぶ減った気がします。

吉田 ミスiDの特徴として女の子が面接の制限時間をちゃんと守らないというのがあるんですよ。粘るとか、そもそも時間の概念がないくらいの人もいる。そもそも小林さんがそういう人なんで(笑)。全然帰らない人も毎年います。

小林 僕みたいな時間管理のできない人間がやってるオーディションなんで、そこはすみません。最近やっと気をつけようと思ってるんです。

吉田 遅いですよ!

―― 選考動画ってなんで時間がバラバラなんですか? 30秒ぐらいの人もいれば10分くらいの人もいますが。

小林 あれはただ本人のテンションです。すぐ帰る人もいるし、異常に粘る人もいるってだけです。

吉田 そもそもコミュニケーションが苦手な人ばっかりなので、普通のオーディションよりは時間が読みにくいことは確かです。喋りたくないからもう終わりでいいですって人もいるし。なぜ出てきたのかってなりますけど。

小林 協調性がない、コミュニケーション能力が足りないってのはミスiDに出てくる子たちの最大の特徴です。いや、当たり前すぎてもはやデフォルトくらいの感じで(笑)。でもさっきも言いましたけど、僕は何にも悪いことだとも思ってなくて。同調圧力の国で苦しくなる一方の若い世代に風穴を開けてほしいというのがあるので、あんまりそこに気は使わないでほしいんです。

大森 気を使うのはそこじゃないよね。

吉田 そもそも「おはようございます!」って入ってくる人なんて、ほぼ皆無ですよ。

小林 初代グランプリのティナ、2014グランプリの蒼波純から、今年のグランプリの友望に至るまで、声が小さい子はなぜか圧倒的に多いですね。最初の頃は、選考委員のずっとザ・芸能界で生きてきた大郷剛さんが毎年驚いてました。「おはようございます!」という声がオーディション会場で響かないことに。

吉田 大郷さん、「挨拶できない時点でアウトだよ!」って2年目の時に吠えてました。

大森 ミスiDの選考をしていると「これもありなんじゃないか」と、自分の美学がどんどん揺らいでいくんだけど、大郷さんは揺らがないからすごい。

吉田 多少は揺らいでますよ。昨年は「れ音(ミスiD2018 吉田豪賞)はいい」とか、今までアウトだったジャンルの人も評価し始めている。

小林 れ音、大好きです。ああいう、才能はとんでもないけど誰も手なづけられないような子が生きていける世界に芸能界も変わっていってほしいし、変わらないとダメだと思うんですよ。今は、事務所が圧倒的な力を誇っていた旧芸能界的なしくみが崩れて変化している過渡期だということは、多かれ少なかれ、みんな肌で感じ始めてる。ただ、ああいう昔ながらの芸能界の価値観を持った人にも絶対居てほしいんです。ご意見番として。

 

■「賞が多すぎる」問題

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吉田 「私の選評まだでしょうか?」というDMも今年は多いんですよ。ボクの場合、書いてる本数は例年よりも多いくらいで、毎年年末進行で本格的にやばい中で書いているのに、「個人的にでもいいのでください」って来るんですよ。個人的に送るならちゃんとアップするし、そもそもその時間がないのに!

小林 「いつまでも待ちます」とか。

吉田 小林さんが描かないせいで「誰からも選評がこないです。なんとかしてください」みたいなのがくるんですよ。

小林 主宰なので絶対全員書くと決めてるんですが、毎年人数も増えやることも増えて…….ってじゃあ減らせよって話ですけど。あ、2019ファイナリストの選評は一月中に必ず全員書き終わりますのでもう少しだけ待ってください……。

ちょっと話変わるんですけど、今の若い人たちって正当な評価がされてない、と思うんです。同世代ばっかりで先輩もいないし、そもそもぼっちだったりする。先生や親や職場の上司なんて、たいていトンチンカンなことしか言わない。信用する人からもらう評価って、僕は賞金よりも意味があるんじゃないかと思ってます。一億円とかならそっちの方が全然いいですけど(笑)。評価がもらえるっていうのは、結構なミスiDのモチベーションな気がします。

大森 それあるよね。自分の評価って生きててもほとんどない。でもそうは言っても、私たちの意見だって偏ってる。本当に正しいかどうかなんてわかんないですよ。だから、そこらへんも冷静に俯瞰した上で、私たちの評価やアドバイスを聞いてくれれば、それは結構的外れではないと思う。

吉田 ミスiDは賞が多すぎるって言われるじゃないですか。小林さんはどう言うふうに思いますか?

小林 毎年毎年いろんな人から怒られてます。

吉田 それでいて、これだけ賞を増やしても「なぜ誰々が賞をとらないんだ」って言われ続けるわけじゃないですか。

小林 ミスiDはファイナリストくらいまで残ればもはや全員がミスiDなんですよ。これもアホみたいにずっと言ってますけど。一人のグランプリを選ぶオーディションじゃないので。でもさすが次は心を鬼にして賞の数を減らすか、もしくはもはやファイナリスト全員に賞はあげるしかないのかなと、本気で考えてます。

吉田 書類選考で、選考委員の誰かが一人でも◎をつけたらカメラテストに来れるシステムなんですけど、推した選考委員がそのカメラテストに来れないってことが多々あるのは、地味に結構困るんですよね。そういう時はその子を推してないボクらが見ることになるんですけど、まったく評価どころがわからない人の話を聴く時の地獄感はすごいですよ。なので「評価した人、ちゃんと来てよ」は思います。

■ミスiDをよく知らない人に来てほしい

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小林 これからの話をすると、ミスiDの「物語」が強すぎるという問題はありますよね。ミスiDになりたくて応募する人が増えてるんですよ。

―― それは困ることなんですか?

小林 つまんなくないですか? ミスiD好きとか、ミスiDになりたいって思う人だけがエントリーするオーディション。

吉田 選考委員の影響力が良くも悪くも強いがゆえに、「縷縷夢兎を着たい」「大森さんに会いたい」みたいな目的が強くなってしまうのもありますね。そこに一切興味のない人がもっと出てきてほしいとは思います。

小林 はい。ミスiDをよく知らない子が、もっとひょっこり来るような感じにならないかなと。そこは選考委員の方の幅を広げることでも対応したいと思ってるんですけど、とにかく異常にめんどくさいオーディションなので、豪さんや大森さんみたいに、めんどくささに対する異常な耐久性のある人ってそんなにいないんですよ。だから「我こそは全員最後まで見届けられる変態である」という人が居たら、ぜひ選考委員に立候補お願いしたいです。これまじめな募集です。

―― ミスiDでは課金はあくまで評価の一部ですよね?

小林 課金煽りまくって上位のこの人たちが選ばれました、は単純に何がおもしろいのがわからなくて。あとそもそもそれだとオーディションではなくて、人気投票ですよね。
ミスiDももう気づけば7年やっているので、「3年間ウォッチしてました」とか、今年のキャッチコピー賞の坂田莉咲のように「今年やっと受ける覚悟ができたので受けました」って子もいるんですね。こうしてる間も「今年じゃないな」とか「来年はかわいくなるはずだから受けよう」とか考えてる子がいるってことですよね、多分。

大森 ライブも「4年前から好きだったけどやっと来れました」って子がたくさんいるから。やっぱ続けないとダメだなって思いますね。

吉田 「来年は絶対に受けます」ってDMもよく来ます。

小林 「私の勝負は2021年なんでその時まで続けてください」とか。その人なりに人生をかけてたりするものになって来てるから、そのためにも続けないとというのはあります。一方で、このまんまじゃつまんないし、小さく閉じたものになるっていう怖れもあります。そもそも選考委員に山戸結希監督がいるんだからエントリー前に映画の一本も撮ってきて「観てください」だっていいし、SKY-HIがいるんだからフリーのラップバトル仕掛けたっていいし、「ゴットタン」の佐久間さんがいるんだからストレートにバラエティ勝負って子が大挙来てもいいと思うんですよ。けど、現状ほとんどいません。勝負を挑んでくる子がまだまだ少ない。でもそれはきっとまだミスiDが知名度も信頼度もそこまで行ってないからなんだと思います。もっと国民的オーディションになんないとダメだな、と思うんです。

■リスクしかないオーディションをなぜやるか

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―― 話を伺っていたら、めんどくささとリスクしか感じないのですが(笑)。それを超えてミスiDという場にいる面白さを教えていただけますか?

吉田 ボクが仕事をやっているモチベーションは、人の人生に影響を与えたいからなんですよね。社会を変えるのは困難だけど、個人を変えることはできる。そういう意味では一番、直接的に人生を変えることに関われる仕事だと思うんですよ。

小林 豪さんがそう言ってくれるのは本当に嬉しくて。豪さんというのは、ヤバい人に対するアンテナがちょっと尋常ではないと思うんです。ヤバいというのはこの場合かなり幅が広い意味です。プラスのヤバさも、マイナスのヤバさも。夜中に豪さんから「(ミスiDの)〇〇さんちょっといまヤバそうです」ってDMが何度来たかわかりません。ヤバい人ポリスみたいなところがある。

吉田 深夜、ツイッターのタイムラインで精神崩壊して死にそうなミスiDの子を発見すると、ボクがDMを送ったりして様子をうかがいつつ、小林さんに「なんとかしてあげて下さい!」って報告するという。

―― 大森さんはどうでしょう?

大森 私は、見たこともないものを見ると自分の許容量のメモリーが増えるんですよ。かわいいって、固定されると一番腐ると思うんです。こういう子もいる、こういう子もいるっていっぱい知っていくことが、自分のかわいいの感覚を研ぎ澄ませることで。だからそれだけは続けたい。必要な平和とか必要なかわいいって、どんどん変わってくじゃないですか。だからずっと見ないといけないみたいな宿命みたいな感覚ですね。

小林 普通、自分を確立してる人ほど、自分のジャッジポイントを絶対視するというか囚われてしまうんですが、大森さんは不思議とそういうところがないんです。本当にその人を見て考えて悩んでくれる。普通は一番できないことで。

大森 だから今ひとつ書くことないなあと思って書いてる人ほど、寸評が長くなっていくんですよ。

小林 あぁ、わかる!

大森 で、書いてるうちに、これは好きだなってなるんですよね。

小林 それもわかる。

大森 書いちゃったら実は「好きかも」って。小林病かな(笑)

小林 大森さんはちゃんと言語化してくれる人なんですけど、言語化することではじめて存在することができる女の子っていると思うんですよ。
たとえば、1950年代にジェームス・ディーンが登場するまでは、アメリカにはアダルト(大人)かキッズ(子供)のどっちらかしかなかったんですけど、彼が出てきたことではじめて「ティーンエイジャー」という、そのどっちでもない中間の存在が認識されたんです。だから名付けること、言語化することってすごく大事で、名づけられないと存在してないのと同じなんです。
今年、カンヌ映画祭パルムドールを受賞した是枝裕和監督の『万引き家族』を、審査委員長のケイト・ブランシェットが「インビジブルピープルを描いた映画だから決定的に正しいんだ」と評してて感動しました。ミスiDはインビジブルピープル――見えない人たちなんですよね。だから無理矢理にでもよくわかんない賞をあげたりしてます(笑)。あと、よく「飽きませんか?」と言われるけど、意味がわからない。毎年違う子が来るのに。

大森 飽きはしないですね。慣れはするけど。

小林 そうそう。慣れはする。知見は溜まっていくので。

大森 あぁこういう人ねって。

小林 でも、それを裏切って来た時の快感はすごい。

大森 あぁ、やばい!まだあるんだ。マジ!?ってなります。

小林 積み上がった知見やデータを一瞬で破壊しくれるような女の子が、毎年ちゃんと現れるんですよ。「ミスiDはメンヘラばっかり」って言う人もまだいるんですけど、ミスiDどころかあなたは人間を理解してるのかなって。

大森 それ解像度ですよ。ミスiD見てると解像度が上がる。解像度が低い人は全部同じメンヘラに見えるからそんなことが言えちゃう。こんなに色とりどりなのにね。
この前、あるトップ・ユーチューバーの男の会話を聞いていたら、「男で”こういう自分を認めて”ってのはいいけど、女が見せる自己顕示欲は引く」みたいなことを言ってて、結構げんなりしたんだけど、男は「こういう自分を愛して」って言えるのに女の子の評価ってまだそうなってないのかって、その人を見て思ったんですよね。そいつは「オレも大森靖子にフォローされたからメンヘラの仲間入りかなぁ」とかも言ってて。まだまだ世界は地獄だなって思った。こんな時代まだ続いてるのかって。フェミっぽいこと言うわけじゃないけど、女の子はもっと解像度高いし、もっと「自分だから」でいいじゃん。男女じゃなくて自分だからで戦えるように、かわいいも底上げしていきたい。

小林 ほんとそうだよね。地獄はまだそこら中にある。

大森 だから「ほら見ろよ!」って気持ちですね。グランプリを見ろよ。この世界遺産を見て。この豊かな自然を(笑)。

吉田 「ミスiD全員はメンヘラ」と言う人には、そうじゃない人も山ほどいて、とにかく雑多なオーデションなんですけど、要は「普通なら受け入れられないような人もなるべく受け入れるから、病んだ子も増える」ってだけだと思ってます。入院しているレベルの、他のオーディションだとまずアウトな人も快く受け入れるってだけのことで。

大森 あと、私は単純に私の欲望で選考委員やってるから「靖子ちゃんのユニットに入れてほしいから応募しました」みたいに言われても、それは私の欲望ではないから……。ユニット作って売れたいって欲望でZOCを作ったわけじゃないから。欲望がないと続けられないからそこは有り難いけど、難しい。

小林 大森さんはいい意味で無自覚な子をチョイスするじゃないですか。非戦略的な子が何人も入ってて、それがいいなぁって思いますね。しょうもないピースしてる写真の子とか。

大森 うん、大好き。

小林 本音を言うと、応募してくれる人を待ってるだけじゃなく、街にいる人とかお店にいる人もどんどんスカウトしたいんですよ。ほんと声かけたいなぁって思うんです毎日。

大森 いるよねぇ。

小林 一日一人はいます。時には駅の一回の乗り換えだけで三人くらいいます……病気かもしれません。

大森 わかる。この前あまりに感動して小林さんに写真送ったことあった。電車で作業服着てたんですよ。ドアにもたれて、すごい無自覚な美人が。

小林 美人だけどむしろ申し訳なさそうで居場所のない感じがあって。

大森 いいよねぇ。

小林 そういう人は絶対自分でエントリーしないですから。だからスカウトキャラバンできないかなあと思うんですよね。できないかなあ。

■落とすのではなく、残すオーディション

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――最後に、今年またミスiDがあると仮定して、受けようと考えている女の子にアドバイスをお願いします。 

吉田 書類を見る側から意見を言うと、最初の写真と自己PRの何行かが一番重要で。だから、せめて最初に目につく部分に引っかかりを作って欲しい。せめて写真はちゃんと撮ろう。主張することもちゃんとしよう。ってことですよね。最初の引っかかりががあったら下までスクロールするけど、それがなかったら読み飛ばされちゃうんですよ。

大森 昔、自分がオーディションに履歴書を送ってた時のことを思い出すと、本当の自分を書かないといけない、詐欺しちゃダメ、平均点の証明写真を送らないといけない、と思い込んでいたんですけど、全然それはそんなことなくて。別に嘘でもいいからベストの写真を送った方がいい。ハッとさせてほしい。

小林 書類は会うまでの期待の持続感をどう作るか、なので、ある程度の嘘はついてもOKだと思います。でも会ってがっかりだとそれで終わりなので、そこは自分でどういう自分を作れるかですね。

吉田 悲しいのはツイッターに飛ぶと鍵垢だったりする確率が多いことです。

大森 私、ブロックされてました(笑)

吉田 ボクもされてました(笑)。

小林 受けるオーディションの選考委員をブロックするなんて、すごい度胸ですよ。

 

吉田 あと、今までに何度も出ているような名前を名乗るのはやめたほうがいいです。平仮名で、よくある名字だけとか。

小林 カメラテストでも面接でもなるべく紙に書いた文を読むのもやめたほうがいいかなと。感情がどうしても乗りにくいので、生感が消えちゃう。死んでしまいます。

吉田 あとはカメラテストで何かを食べるのも毎回全員失敗してます。

小林 時間が持たないからと言うんですが、まずよっぽど面白くなければふつうに喋ってくれたほうがいいですね。あと、フリップ芸でおもしろくなる確率は異常に低いのでよく考えてから。

大森 水野しず以外おもしろかった記憶ないかも。

吉田 下読みの段階からしっかり見ないといけないおそろしいオーディションじゃないですか。応募総数がかなりあって、それを審査員も全部見るのは本当に大変で。ふつうなら審査員が見る前の段階で、まず駄目そうな人を大幅に振り落とすものなんですけど、それがないオーディションはまずないし、それだけ多くの人間がチェックしても書類を見落とす子がいるわけですよ。

小林 たしかにそうなんですよね。

吉田 結局、会わないとわからない魅力がある人がいるんですよ。あと、カメラテストでも最終面接でも「こんなに時間とって、ちゃんと話を聞いてくれたのははじめてだ」と驚く子が毎回いるんですが、ふつうのオーディションがどれだけ時間が短くて、どれだけチェック漏れしてるんだってことですよね。

大森 一人一人違うから違う感覚を出して見るのですごく疲れるけど。

吉田 疲れますよ。その上で「文句のある人は会いに来てください」まで通用してしまうオーディションは他にないです。

小林 今回から選考委員をお願いした音楽ジャーナリストの鹿野淳さんが、面接終わったトイレで「いろんなオーディションやってきたけど、オーディションって落とすものだって思ってたのね。それがミスiDは、選ぶ側が全員でいいところを引き出そうとしてるのに、最初びっくりして。落とすんじゃなく、残そうとしてるのかって。カルチャーショックでしたよ」と言ってくれたんですが、逆にそうなのか、と思って。考えてみればへんなオーディションなんだなと。

吉田 受かれば即何者かになれるってオーディションでもないので、自力でなにかを見つけて育つ、そのきっかけ作りの場でもあると思います。

小林 雑誌の専属モデルになりたいとか、どこかに事務所に入りたいって人は、ミスiDなんか受けずまっすぐにそっちを受けた方がいいです。時間の無駄なので。

吉田 寺嶋由芙(ミスiD2014)さんが「ミスiDはシェルターだ」という言い方をしてたんですけど、何かあった人とかが人生を変えるきっかけにはしやすい場所だと思います。まず逃げ込むでもいい。だからたとえばアイドルグループを辞めた人は受けるのにピッタリで。近くにいるよくわからない大人を頼るしかない状況は一番危険だったりするので、そこから一歩踏み出すきっかけにしてもらえれば。

大森 それはあるよね。広い世界を見るのって意外と難しいから。

小林 ゆうこす(菅本裕子・ミスiD2016準グランプリ)みたいに、才能はあってもどこに向かえばいいかわからないようなグツグツとしたマグマが蠢いてる人も、ぜひ。

吉田 スキャンダル・ロンダリングにももってこいの場ですよね。とりあえずリセットされるので。オーディションでなかったことにできるなんて普通あり得ないので。

大森 とにかくどこにも自分の居場所がないなと思ってる人。居場所は必ずどこかにあるので、あきらめないで。

小林 どんなにヘンと言われてても大丈夫。可能性が少しでもある人はできればみんな拾いたいんです。

大森 まあ実行委委員長が一番頭おかしいから、ほんとに誰でも大丈夫(笑)。

  

  • プロインタビュアー:吉田豪

    東京生まれのプロインタビュアー。以前、寺嶋由芙さんが「ミスiDはシェルターみたいなもの」と言ってたんですけど、ボクも「ミスiDは、アイドルとしてはグループ活動などですでに人気があったり、ちゃんと事務所に入っていて売りだされていたりで、放っておいても成功しそうな人より、いろいろと鬱屈したものを抱えていたり、いろいろあってグループを辞めた元アイドルであったりとか、ここでしか評価されなさそうな人のほうが有利なオーディションであって欲しい」と思っていて、そんなモットーで審査してます。ミスiD2014・2015・2016・2017・2018選考委員

  • 超歌手:大森靖子

    新少女世代言葉の魔術師。超歌手。弾切れも気にせず畳み掛けるように言葉を撃ちまくるジェットコースターみたいな弾き語りや、時にギターすら持たないアカペラによる空間制圧型ライブの評判が広がりメジャーデビュー。ARABAKI ROCK FES2014からはじまりTOKYO IDOL FESTIVALフジロックロックインジャパンなど垣根なく出演、音楽の中ならどこへでも行ける通行切符を持つ唯一のアーティストとなり、本来の実力と演奏により着実に動員を増やしていく。メジャーデビュー直後2014年11月26日、道重さゆみさんモーニング娘。卒業、2017年道重再生するやいなや大森靖子自身体調も気分もお人柄もよく大絶賛音楽活動中。斬新と不思議と諦念とワガママと創造と焦燥に生きるかわいい女の子とおっさんLOVE。一方、アイドルを中心に多くの楽曲提供やエッセイ本『超歌手』(毎日新聞出版)の刊行等、多方面に渡り才能を発揮。7/11にはアルバム「クソカワPARTY」が発売と、10月~超歌手 大森靖子「クソカワPARTY」 TOURを全国13箇所行脚。最終公演では2019年47都市ツアー開催を発表した。ミスiD2015・2016・2017・2018選考委員

  • ミスiD実行委員長:小林司

    講談社編集者/ミスiD実行委員長。女性誌男性誌の編集を経て、「妄撮®」シリーズから、『水原希子フォトブック KIKO』『二階堂ふみフォトブック 進級できるかな。』『玉城ティナフォトブック Tina』など、女の子モノ企画を幅広く手がけ、2012年「ミスiD」を立ち上げる。現在、フライデーデジタルチーム所属。ミスiD2013・2014・2015・2016・2017・2018選考委員

  • 取材・文:成馬零一写真:飯田えりか

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